大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和29年(ワ)971号 判決

原告 松本治一郎 外二名

被告 国

訴訟代理人 今井文雄 外一名

主文

被告は原告松本治一郎に対し別紙目録〈省略〉第一記載の土地を、同松本英一に対し同目録第二記載の土地を、同島津義磨に対し同目録第三記載の土地を、夫々アメリカ合衆国軍隊使用の施設を撤去した上明渡さなければならない。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「原告松本治一郎は別紙目録第一記載の土地の、同松本英一は同目録第二記載の土地の、同島津義磨は同目録第三記載の土地の各所有者であるところ、被告は現在右土地の全部をアメリカ合衆国軍隊に板付空軍基地敷地として提供し、同駐留軍を通じて間接にこれを占有しているのであるが、右被告の占有は次に述べる如く何等の権限をも有しない不法な占有であつて右原告等の土地所有権を侵害するものである。即ち

(1)  右第一及び第二の土地については、原告松本治一郎、同松本英一は何れもその所有地を被告に貸与しもしくはアメリカ駐留軍に貸与したこともなく、又かゝる貸与の権限を第三者に委任したこともない。もつとも昭和二十七年七月二十八日付で右原告等の代理人と称する訴外簑原次作と福岡調達局不動産部長福間徹との間に、右第一、第二の土地について夫々これを右原告等から被告に賃貸する旨の賃貸借契約書が作成されてをり、右原告等が夫々右訴外人に対し右契約の締結を委任する旨を記載した委任状も存在する様であるが、右原告等は事実この様な契約を締結することを右訴外人に委任したことはないから右契約は代理権欠缺の故に無効である。従つて被告はかゝる無効な契約に基く賃借権を以て右原告等に対抗することはできない。

(2)  次に仮に右契約がその様な手続上の瑕疵がなく締結されたものであるとしても、右契約の内容は右原告等の所有地を合衆国軍隊の用に供することを目的としているのであるが、同駐留軍の存在すること自体、絶体平和主義の原則を貫くために戦争を放棄し一切の軍備を廃止した日本国憲法第九条に違反しているものであるから、右契約は即ち憲法違反事項を以てその目的とするものであつて同法第九十八条第一項、及び民法第九十条に照し内容的にも無効なものというの外はない。

(3)  更に右(1) 、(2) の点をしばらくおいても、前記契約書に記載された賃貸借期間は昭和二十八年三月三十一日までであつて現在被告は何等賃借権を有しないものである。従つてこの点からしても被告が右期限を経過した現在も右原告等の所有地の占有を継続すべきいはれはない。

(4)  更に第三の原告島津義磨の所有地については、被告は同原告に対し何等の手続をとることもなく全くほしいまゝにこれを合衆国軍隊の使用に供しているものである。

以上の次第であつて被告は何等の権限がないのに拘らず原告等の所有土地を合衆国軍隊の使用に供してこれを不法に占有し、原告等の右土地所有権を侵害しているものであるから、原告等はこゝに右所有権に基いて被告に対し本件各土地をその地上所在の合衆国軍隊の施設を撤去した上夫々の所有者たる原告等に明渡すべきことを求めるため本訴に及んだ。」

と述べ、被告の主張に対し

「本件土地中原告松本治一郎所有の福岡市大字雀居所在の土地については昭和二十年十二月頃、その余の土地については昭和二十三年一月頃、夫々これを占領軍もしくは占領終了後尚外国軍隊が駐留する場合はその駐留軍の使用に供するためその必要とする期間被告に賃貸する旨の賃貸借契約が原告等代理人訴外中山市太郎と被告との間に成立したとの事実は否認する。原告等はその頃この様な契約の締結を右訴外人に委任したことはない。被告は右の古い契約が現在も有効に存続していて、その後原告等土地所有者代理人と被告との間に作成された契約書は単に証拠書類たる意味を有するにすぎないというけれども、かゝる主張が容れらるべくもないことは次の事実からも明白である。即ち右の原告等土地所有者代理人訴外簑原次作と福岡調達局不動産部長との間に作成された各賃貸借契約書によれば、契約期間の始期、終期が明かに定められてをり(一会計年度限り)『乙(被告)において必要あるときは甲乙協議の上本契約を更新することができる』ことまで規定されている。賃貸人である土地所有者等はこの契約条項通りの契約が締結されるものと考えて毎年委任状を出してをり、代理人簑原もそういう積りで契約書を作成して来たのであつて、駐留軍が必要とする間という様な長期の契約をしたことは更にない。被告がどういう積りで右の契約書を書かせていたかは知らないが、一方の当事者たる土地所有者等が右の様な長期間にわたつて賃貸する意思を持つていなかつた以上、その様な内容の契約が成立する筈がないのである。右の如く毎年委任状がとられ、毎年契約書が更新され、その契約書の中に契約期間が明記されていてその更新手続まで定められているという本件の場合には、駐留軍が必要とする間はという黙示の期限の合意が成立していたことになるわけがない。従つて本件の場合問題となるのは、右の如く毎年更新されている契約が原告等について現に有効に存在しているかどうかである。而して原告等について現にかような契約関係が存在していないことは前述の通りであり、原告松本治一郎、同松本英一の各所有地について昭和二十八年四月一日以降の賃貸借契約書が作成されなかつたのは、被告主張の様に単なる証拠書類の作成が怠られたとかいうのではなく、右原告等において右賃貸借契約の締結を明示的に拒否したからに外ならない。よつて被告の右主張は到底容認さるべくもないものである。」と答えた。〈立証省略〉

被告指定代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として

「原告等主張事実中、本件係争土地の所有関係が夫々原告等主張の通りであつて、被告が現在右土地をアメリカ合衆国軍隊に板付空軍基地敷地として提供し同軍を通じて間接にこれを占有していること、及び昭和二十七年七月二十八日付で原告松本治一郎、同松本英一の代理人訴外簑原次作と福岡調達局不動産部長福間徹との間に原告等主張の第一、第二の土地について夫々これを被告に賃貸する旨の賃貸借契約書が作成されていることは認めるが、その余の事実はこれを争う。被告は本件各土地を夫々原告等から適法に借上げてこれを合衆国軍隊の使用に供しているのであつて何等不法な占有をなしているものではない。即ち本件各土地中原告松本治一郎所有の福岡市大字雀居所在の土地については昭和二十年十二月頃、その余の土地については昭和二十三年一月頃、夫々これを占領軍もしくは占領終了後尚外国軍隊が駐留する場合はその駐留軍の使用に供するためその必要とする期間被告に賃貸する旨の契約が原告等代理人訴外中山市太郎と被告との間に成立しているもので、この契約は現在も有効に存続してをり被告はこの賃借権に基いて本件各土地の占有を継続しているものである。而して右賃貸借契約の契約書についてはその後において後に述べる財政法、会計法上の関係から一会計年度を期限とする契約書が毎年くり返し作成される様になり現在に至つているが、これは右の賃貸借契約の証拠書類であつて本件賃貸借関係を如実に反映するものではなく、原告等主張の昭和二十七年七月二十八日付作成の賃貸借契約書も又その例に洩れないものであるから、原告等が右契約書の文言のみによつて被告の使用権限を争うのは当らない。以上の被告の主張の具体的事実関係を明かにすればおよそ次の如くである。即ち、本件各土地の中原告松本治一郎所有地中の福岡市大字雀居所在の土地は現在板付飛行場敷地内に存し、その余の土地は右飛行場東に隣接する山間地区と称される地域内に存するのであるが

(一) 右の飛行場敷地約六十八万坪については昭和十九年三月頃旧日本陸軍がその土地所有者等からこれを買収し爾来飛行場として使用していたが、終戦直後もはや不用に帰したものとして右買収契約を解除し旧土地所有者等にこれを返還した。そこで原告松本治一郎を含む右飛行場新地の所有者全員は右返還土地を農地に復元するため昭和二十年十二月頃席田耕地整理組合なる任意組合を結成し組合長に訴外中山市太郎を選任したところ、これと相前後して右敷地は再び占領軍により徴発されるところとなつたので、被告から右土地所有者全員に対し右敷地を占領軍の用に供するため賃借したい旨申入れた結果、右所有者等はこれに応ずると共に右組合の目的を変更してこれを右敷地の賃貸借に関する事務の処理を目的とする組合として存続させることにし、同組合の業務執行者に被告との間の右敷地賃貸借に関する一切の事項を処理する権限を与えることを申し合せた。そこでその頃右組合の業務執行者たる前記中山市太郎と被告との間に、右敷地についてこれを占領軍の飛行場敷地としての使用に供する目的の下に、その賃貸期間は占領軍又は占領終了後外国軍隊が駐留するときはその駐留軍がこれを必要とする期間とし、被告が毎会計年度末において必要があるときは契約を解除し得ること、賃料は統制法規その他客観的に妥当な標準に従つて被告が公正に算出するところによること、として被告が賃借する旨の賃貸借契約が口頭で締結されたのである。もつとも賃借期間についてはその際必ずしも前記の趣旨が明示されたわけではないが、賃借の目的が占領軍において飛行場敷地として使用するにあること、及び飛行場敷地には厖大な半永久的固定施設が投入されてこれを他に移動することが著しく困難であること等の事情から考えて、少くとも右の趣旨の黙示の合意があつたものといわなければならない。かくして飛行場敷地については被告は右の賃借権に基きこれを占領軍の使用に供して現在に至り、その間講和条約成立に伴い占領軍は性格を変じて駐留軍となり、これに基地施設等を提供すべき政府の義務の根拠は占領中の連合国最高司令官の指令による提供義務から安全保障条約に基くそれに変つたけれども、何れにしても日本国政府が合衆国軍隊に基地を提供すべき義務を負い、そのために必要があれば行政権による土地収用をも発動しなければならぬ基本的条件は講和の前後を通じて変化してはいないのであるから、前記賃貸借契約の期間が右講和条約公布の時を以て満了したものとすることはできない。もつとも右の契約当初は、将来の講和条約や安全保障条約の成立に伴い占領軍が性格を変じて駐留軍となり、又これに基地施設等を提供すべき政府の義務も前記の如く法的性格を変えるであらうことは、現在の如き正確さでは予測できなかつたところではあるが、当時の社会情勢と板付基地の新設工事の情況から見て外国軍隊の使用が長期にわたることは大方の予想し得たところであつて、政府の基地提供義務の存続する限り本件土地の賃貸借を継続しなければならないことは両当事者間において当然認識されていたのである。しかもこの合意は後述((三)(A)の(6) )の如く占領軍が駐留軍に性格を変更した講和発効当時、あらためて前記原告等代理人中山市太郎と被告との間で従来契約条項中の占領軍を駐留軍と読替えることとされ再確認されたのである。即ち原告等代理人である右訴外人は本件各土地につきこれを占領軍もしくは駐留軍の必要とする限り被告に貸与する意思の下に契約上一切の行為をなして来たものといはなければならないのである。

(二)  次に右の飛行場敷地外の原告等所有地部分を含むいはゆる山間地区についての契約関係は次の通りである。右の如く当初飛行場敷地のみを飛行場として使用していた占領軍は、これに隣接する東側山間地区約七十六万坪をも飛行場附属用地として必要であるとし、昭和二十三年一月一日これを徴発するに至つたので、被告はこれについての法律関係を調えるべく前記中山市太郎を通じて右山間地区の土地所有者全員に対し該土地を飛行場附属用地として占領軍の使用に供するため賃借したい旨申入れた結果、原告等三名を含む右土地所有者等はこれに応じて各々その所有地を被告に賃貸することとなつたが、各個人において賃貸借契約書を作成したり、賃料を受領したりすることはその手続が繁雑であるため前記席田耕地整理組合の業務執行者に対し被告との右土地賃貸借に関して同組合員と同様に扱はれたい旨を申入れてこれに該契約締結の権限を与え、かくして当時も右組合の業務執行者であつた前記中山市太郎と被告との間において、前記飛行場敷地について述べたところと同一内容の賃貸借契約がその頃口頭で成立したものである。ところがこの山間地区についてはその後駐留軍の現実に使用している部分が極めて少く、大部分は土地所有者等において格別の制約も受けず自由に使用収益してをり、徴発もこの部分については単なる名義上のものにすぎなかつたので、昭和二十八年四月に至り被告は当時前記中山市太郎に代つて前記組合の業務執行者に就任していた訴外簑原次作に対し、合衆国軍隊の使用していない土地の賃料は昭和二十八年七月二十八日以降は支払はない旨を申入れてその承諾を得た。しかし原告等主張第一乃至第三(前記(一)の飛行場敷地所在の松本治一郎所有地を除く)の山間地区所在各土地は、何れも米軍がオイルタンク敷地として使用中であつたため右合意の対象とはならなかつたのであり、この各土地については被告は現に有効に存続する前記の賃借権に基いてこれを合衆国軍隊の使用に供しているものである。

(三) 右の如く飛行場敷地及び山間地区について夫々時期を異にしてこれを占領軍もしくは駐留軍の必要とする期間被告に賃貸する旨の契約が成立したのであるが、その証拠書類たる契約書については右契約の内容を必ずしも如実に反映する様には作成されていない。(A)先づ飛行場敷地部分については、(1) 契約当初から昭和二十三年九月三十日までの間は契約書は作成されてをらず(しかし賃料は支払はれている)(2) 昭和二十三年十月一日付で始めて前記中山市太郎と福岡特別調達局契約部長との間に、賃貸期間を同日より昭和二十四年三月三十一日までとする契約書が作成され(3) 同二十四年十二月三日付で期間を同年四月一日より同二十五年三月三十一日までとする契約書が右両者間に作成され、(4) 同二十五年四月二十七日付で期間を同二十六年三月三十一日までとする契約書が右同様に作成され(5) 同二十六年四月一日付で期間を同二十七年三月三十一日までとし、新に『政府は毎年任意に契約を更新することができる』旨の条項を附加した契約書が右同様に作成され、(6) 同二十七年度は当初契約書が作成されず、福岡調達局管財部長名義の契約更新通知書が前記中山市太郎に交付されたがその後同年七月二十八日付(占領軍が駐留軍に性格を変更した日)で従前の契約書中占領軍を駐留軍と読替え契約更新に関する規定を削除する旨記載した仮契約書が右両者間で作成され、(7) 次で同二十八年四月二十日頃に同二十七年七月二十八日付で期間を同二十八年三月三十一日までとし期間満了の際被告において必要あるときは両者協議の上契約を更新することができる旨を記載した契約書が福岡調達局不動産部長と前記中山市太郎に代つて板付耕地整理組合の業務執行者に就任した訴外簑原次作との間に作成された。(1) 而して昭和二十八年度以降は、他の土地所有者等については前同様の契約書が作成されたが、原告松本治一郎所有地については契約書が作成されていない。尚賃料額は数次にわたり毎会計年度の途中において改訂されてをり、又右各契約書の日付は実際の契約書作成の日でなく、作成は常に契約書の日付より相当遅れて、甚だしきは翌年に入つてから行はれてさえいる。(B)次に山間地区についての契約書作成の経過は、原告松本治一郎、同松本英一の各所有地については前記(3) 乃至(8) と全く同一の経過をたどつてをり原告島津義磨所有地については前記(3) 乃至(6) と同一の経過で契約書が作成された外その後は全然契約書が作成されていない。

契約書が右の如く作成されているのは前記被告主張の内容と一見矛盾する様であるが、これは次に述べる如く財政法、会計法上の関係から特にこの様に作成されたにすぎないもので、什細にこれを検討すれば何等矛盾するものではない。即ち、一般に国家機関が国の金銭債務を生ずべき法律行為をなすには国会の議決を経た歳出予算、継続費又は国庫債務負担行為の裏付が必要であり、当該会計年度内に弁済すべき債務を生ずる法律行為は歳出予算の枠内においてこれをするのであるが、当該会計年度以降にわたつて弁済すべき債務を生ずる法律行為をするには歳出予算の外に別にその旨を特に定めた継続費又は国庫債務負担行為として国会の議決を経なければならない。ところが国が土地建物等を当該会計年度を越えて長期に賃借する様な行為は正に右の後者の場合に該当するから理論上は国庫債務負担行為として国会の議決を経なければならないものである。(継続費はこの様な行為には適しない)しかし、各種の賃貸借契約を一々国庫債務負担行為に盛り込むことは煩に耐えないところであるし、殊に賃借期間が予め特定し得ないとか、賃料の変動が予想されるとかいう事情の存する場合にはこれを国庫債務負担行為として国会に付議するにも重大な支障がある。とはいえ国がかような継続的契約関係において相当長期間の賃借権等を確保すべき必要は常に生ずるものであるから、かような場合に国が右の財政法等の制約を免れながら他面において相当期間の権利を確保する措置が講ぜられなければならない。そこでこの措置として、(イ)年度を越える期間を定めた継続的契約を締結しながらその契約条項中に、国は毎会計年度末には一方的に契約を解除し得るとする規定を挿入するか(一方的解除権留保)(ロ)一応当該会計年度末までを期間とする契約を締結しその契約条項中に、国は毎会計年度末には一方的に契約の更新を請求し得るとする規定を挿入するか(一方的更新権留保)の二つの方法が一般にとられてをり、この方法によれば会計年度末には翌会計年度の歳出予算が成立決定していて翌会計年度に国が債務を弁済し得るか否かはこの時に判明するので、関係国家機関はこの時に翌年度歳出予算とにらみ合せて契約の解除又は更新をすればよく、かくして国は会計年度を越えて弁済すべき債務を当然には負担するわけではないから財政法等には違反することなくその制約を免れて国の継続的権利を確保することができるとされているのである。而して右の一方的解除権留保と一方的更新権留保の両方法はその効果は全く同一で特に区別して用いられるわけではなく、どちらかの条項が無批判に挿入されている実情であるので、右両者の条項は一応法律的には相異る意義を有するかの様に見えるが実際に当事者間では異る意義のものとしては認識されず、後者の契約の趣旨は特別の事情(特に短期の契約をなし例外的に更新を考えるのが合理的である様な事情)のない限り前者の契約の趣旨に認識されている。又右後者の条項についてもその表現形式として「国は更新することができる」「国は更新を請求することができる」「両者協議の上更新する」等各種の文言が用いられているが、これも契約期間そのものの問題としては格別の差異を有するものと認識されているわけではなく、その意味するところは国側の明示又は黙示の意思表示がない限り契約が存続されるということであつて、たゞ「両者協議の上更新する」という文言が契約関係そのものは存続するが翌年度の賃料その他の契約条件については両者協議の上でこれを定めるという趣旨である場合があり得る点に若干の意義を有するにすぎない。右を要するに国を一方の当事者とする継続的契約関係について作成される契約書の条項は右の配慮に基いているものであるから、契約条項の記載のみから文理的に契約内容を演えきすることはできないのであつて、当事者間の実際の話し合いや契約の目的その他契約締結についての客観的事情のすべてを綜合して始めて真の契約内容を理解し得るのである。これを本件についていえば飛行場敷地及び山間地区についての賃貸借契約の期間は前記の通り占領軍もしくは駐留軍が必要とする期間とされたゞ被告において必要と認めるときには会計年度末に一方的に契約を解除し得るとされたもので、当事者間にその通りの合意がなされていることはその使用目的が飛行場及び附属地域としての占領軍の使用のための提供にあること等に徴しても明白である。たまたま前記の如き事情により作成された契約書に一見これと矛盾し、契約がその期間を向う一年間として各会計年度毎に締結又は更新されたかの如き観を呈する文言があるとしても、これによつて右合意の趣旨を否定することはできないものでむしろこの様な契約書の作成自体(特に賃料額が数次に亘り会計年度の途中において改訂されている点、及び契約書の作成が常に過去に遡つた日附で行われ、甚だしきは会計年度経過後に作成されている点)がかえつて被告の主張を裏付けるものと考えられる契約書の作成自体は予算決算及び会計令第六十八条により国の行う契約には契約書の作成が命ぜられているがために行はれているものにすぎず、国を一方の当事者とする契約についても契約書の作成はもとより契約成立の要件ではない。従つて原告松本治一郎同松本英一の各所有地について昭和二十八年度以降の契約書が作成されていないことは前記の通りでこれは右原告等が契約書作成につき形式上必要な委任状を提出しなかつたためであるが、このことは単に契約の証拠書類の作成が怠られたというにすぎず、もとより当初に成立した契約がこれにより解除されたものでないことはもちろん、その他如何なる意味においても契約関係の存続がこれによつて左右されるものではない。又原告島津義磨所有地について昭和二十七年七月二十八日付仮契約書以降何等契約書が作成されていないことも単なる事務手続上の過誤に基くにすぎないもので、基本たる契約関係の存続することは右と同様である。以上の次第であるから前記(一)、(二)に述べた基本たる賃貸借契約は今尚有効に存続し被告はこの賃借権に基いて本件各土地を合衆国軍隊の使用に供していることが明かであつて不法占有を理由とする原告等の請求はその理由がない。

(四)  又原告松本治一郎、同松本英一は、本件土地賃貸借契約は該土地をアメリカ合衆国軍隊に使用させることを目的とするが故に憲法違反事項を目的とするものとして無効であると主張するのであるが、憲法第九条第二項にいはゆる『戦力』とは我国自体の戦力を指し、同項は我国自ら維持管理の主体たる地位において戦力を保持しないとの趣旨である。ところで我国は国内及びその附近に配備される合衆国軍隊に対してたゞその費用の一部を分担することはあるが同軍隊を自ら指揮統率する権能は有してをらず、たとえ日本の安全維持のためその出動を要請した場合でも当然に出動があるものでもなく、又同軍隊が我国の指揮統制下におかれるものでもない。このことは日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約及び同条約第三条に基く行政協定に照して明かである。従つて合衆国駐留軍は我国自らの戦力には該当しないから、同軍の用に供するための本件土地賃貸借契約は憲法第九条に違反するものではない。よつてこの点の原告等の主張も又失当であつて、結局原告等の本訴請求は何れの点からするもその理由がない。」と述べた。〈立証省略〉

理由

本件係争各土地の所有関係が夫々原告等主張の通りであつて、これを被告が現在合衆国軍隊に板付空軍基地敷地として提供し、同軍を通じて間接にその占有をなしていることは当事者間に争いがない。被告は右土地の占有の根拠として、右土地中原告松本治一郎所有の福岡市大字雀居所在の土地(飛行場敷地内)については昭和二十年十二月頃、その余の土地(山間地区内)については同二十三年一月頃、夫々これを占領軍もしくは駐留軍の用に供するためその必要とする期間被告に賃貸する旨の賃貸借契約が原告等代理人訴外中山市太郎と被告との間に成立してをり該契約は現在も有効に存続していると主張するので、果して右の如き賃貸借契約が成立しているものかどうかについて先づ検討するに、証人松下聰の証言の中、右飛行場敷地部分については昭和二十二年十二月末頃占領軍が将来接収を解除するときまでこれを被告に賃貸する旨の賃貸借契約が右土地所有者等の代理人である右中山市太郎と被告との間に成立したという趣旨の部分があるけれども右はたやすく措信できないところであり、成立に争いのない甲第一号証乙第二十号証、証人松本治七の証言により真正に成立したものと認められる乙第一、第二、第四、第六号証の各二、第十四乃至第十六号証、証人平田次郎の証言により右同様成立を認むべき乙第四号証の一、第六号証の一のイ、ロ同号証の三、第十三号証、第十九号証の一、二、証人松下聰の証言により右同様成立を認むべき乙第七乃至第十一号証、弁論の全趣旨により右同様成立を認むべき乙第一、第二号証の各一、第三号証の一乃至五、第四号証の三、第五号証、第六号証の四に、右証人三名の各証言(但し松下証人の分は前記措信しない部分を除く)及び証人簑原次作、同中秋豊(一部)の各証言と原告本人松本英一及び島津義磨の各供述を綜合すれば、本件各土地の合衆国占領軍乃至は駐留軍による使用について、被告がその所有者たる原告等に対し設定した右土地の使用関係はおよそ次の如きものであつたことを認めることができる即ち

(1)  本件各土地の中今次大戦中旧日本陸軍の飛行場用地であつた原告松本治一郎所有の福岡市大字雀居所在の土地四筆については、昭和二十年十一月末頃これを含む現板付飛行場敷地約六十八万坪が合衆国占領軍により徴発せられ爾来その事実上使用するところとなつたが、同二十一年五、六月頃に至り米軍より福岡県当局に対し正式の調達要求があつたのでその頃より県はその調達事務を開始し、右徴発土地の所有者の調査、これに対する接収通知、各所有者毎の所有地現地調査等を順次経た上同二十二年四月初頃各所有者毎の土地借上料金額を決定し、その頃右土地所有者等で結成されていた席田耕地整理組合(当初は旧日本軍より返還を受けた前記飛行場用地の耕地への復旧を目的として設立されたが、後に板付飛行場用地所有者組合と改称し、右土地についての被告との賃貸借契約締結その賃料の受領等の事務を取扱う様になつた)の組合長である訴外中山市太郎に対し、右所有者等より同訴外人宛の右借上料受領についての委任状に各所有者が捺印したものの提出を要求しこれを提出させた上、右徴発以来同年三月三十一日までの右土地全部についての借上料を一括して支払つた、そして翌昭和二十三年五月頃に同二十二年度分の右土地借上料が右と同様の方法で右中山に対し一括して支払はれ、右両回共原告松本治一郎所有の前記土地四筆の支払分はその頃本件係争土地全部を管理していた同原告の代理人である実兄訴外松本治七によつて受領された。而してその後同二十三年五月二十五日を以て右土地の調達事務は県より福岡特別調達局へと引継がれたのであるが、同局では当初右土地の借上料算定基準がわからず、昭和二十四年三、四月頃になつて漸く中央から右基準の指示があつたので、同年七、八月頃前記中山市太郎をして右土地所有者等より同訴外人宛の、被告との土地賃貸借契約締結についての委任状に各所有者が捺印したもの(原告松本治一郎所有地については前記松本治七が同原告を代理してこれに捺印した)を提出させた上、同局契約部長栗本秀顕と右中山との間で、昭和二十三年十月一日附で同日以降同二十四年三月三十一日までの期間右全土地を後者より前者に賃貸する旨の、而して右賃貸期間の更新については何等の定もない賃貸借契約書がこゝに初めて作成されたこと。

(2)  ついで昭和二十五年四月二十七日附で期間を同二十四年四月一日以降同年五月三十一日までとする前同様の賃貸借契約書(期間中に占領軍の接収が解除されれば即日契約が解除される旨の条項が附加されている)が前同様にして作成され更に同二十五年七月十日附で右契約期間を同年四月一日以降同二十六年三月三十一日までと改訂する契約書が前同様にして作成されたが、この何れについても原告松本治一郎所有地について同原告から前記の如き訴外中山宛の委任状に捺印がされたかどうかは不明であること。

(3) 次に右の原告松本治一郎所有地を除く残余の本件係争土地全部については、昭和二十四年四月一日これを含む板付飛行場東側隣接山間地区約六十七万坪がこれ又占領軍によつて徴発されるに至つたが、右土地については同年十二月三日附で前記福岡特別調達局契約部長栗本秀顕と中山市太郎との間に、右(1) と同様の方法によつて中山が該土地所有者等全部を代理し、(原告等三名の所有地については前同様の委任状に前記松本治七が原告等を代理して捺印した)これを同年四月一日より翌二十五年三月三十一日までの期間後者から前者に賃貸する旨の、而して右期間の更新についての定はない賃貸借契約書が作成されたこと。

(4) その後昭和二十六年四月一日より以後に(日附不明)福岡特別調達局管財部長福間徹と前記中山市太郎との間に、右(1) 及び(3) の土地を一本としこれを同日以後翌二十七年三月三十一日までの期間後者より前者に賃貸し、政府は必要あるときは毎年同一条件により任意に契約を更新することができ、又文書による三十日間の予告を以て期限前に契約を解除し得るとする賃貸借契約書が前同様の方法により作成され、(原告松本治一郎、同松本英一の各所有地については前同様松本治七によつて中山宛の委任状に代理捺印がされた)ついで同二十七年三月二十九日附で右福間徹より右中山市太郎に対し、右の更新条項により右契約を同年四月一日より一ケ年間更新する旨の通知がなされたこと。

(5)  その後昭和二十七年七月二十八日以降に同日附で右当事者間に右(4) の契約条項中占領軍とあるのを駐留軍と読み替え、契約の更新及び解除に関する条項を削除する旨を定めた改訂契約書(乙第五号証)が作成されたが、これについて原告等から右中山に対する委任状の提出された形跡はなくついで昭和二十八年四月二十日過頃、同二十七年七月二十八日附で右福間徹と右中山市太郎の後任者である訴外簑原次作(同年七、八月頃前記組合の組合長に就任した)との間に、本件原告松本治一郎所有地全部及び同松本英一所有地についてこれを同日以降翌二十八年三月三十一日までの期間合衆国駐留軍の用に供するため被告に賃貸する旨の、尚政府において必要あるときは両者協議の上契約の更新をなすことができ、又契約期間中に駐留軍が使用しなくなつた場合は政府は何時でも解約の申入をなすことができ、解約申入後三十日の経過により契約は終了するものとする賃貸借契約書(乙第六号証の一の(イ)(ロ))が前同様の方法により作成され、その際原告松本治一郎の前記の如き委任状は前記松本治七の代署により作成提出されたが、原告松本英一は右委任状の提出を拒み、又原告島津義磨の所有地については何等契約書が作成されなかつたこと。

(6)  而して以上の各契約期間が一年を超えないこと、正確には毎年三月三十一日を限りとしているのは、調達局側で国の予算が一年を限つて配布される関係からその様に期限を合せる必要があつたことによるものであり、各契約書は何れもその作成日附からは相当遅れてから過去に遡つた日付で作成されたこと、及び本件土地全部につき右の間に賃料は毎年度又は年度中数回被告側により改訂され、原告島津は昭和二十七年七月二十七日まで、原告松本治一郎及び同松本英一は同二十八年三月三十一日までの各所有地の賃料を遅れ勝ちではあるが前記組合を通じてこれを受領したこと(但し前同様訴外松本治七が同原告等を代理してである。)

(7)  而して原告松本治一郎は昭和二十八年九月頃、前記簑原次作より同年四月一日以降の同原告所有地についての賃貸借契約締結並びに賃料受領のための委任状の提出を求められたが、もはや賃貸借を継続する意思がなかつたので右委任状は提出しなかつたこと、そして昭和二十九年六月三十日、同原告及び原告松本英一の代理人訴外増永忍から右簑原に対し、右原告等が板付飛行場用地所有者組合より脱退する旨、及び前記昭和二十七年七月二十八日附の賃貸借契約書作成に際し原告治一郎より右簑原に対し授与した代理権は既に消滅した旨の通知がなされたこと。

以上の諸事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。即ち被告の主張する如く昭和二十年十二月頃と同二十三年一月頃に、飛行場敷地と山間地区につき夫々時期を異にして被告と原告等代理人中山市太郎との間に、右土地を占領軍もしくは駐留軍の用に供するためその必要とする期間被告に賃貸する旨の賃貸借契約(右の賃貸期間の点についてはその様な黙示の合意がなされたという)が成立したとの事実はこれを認めるに足る証拠はないのであるが、右認定の事実に徴すれば、被告は合衆国軍隊が本件各土地の使用を開始した後いくばくもなくその所有者である原告等に対し、右土地を右用途に供するため継続的に使用するについての何等かの権限を取得したものと認めることができその権限が果して純然たる意味での賃借権であるかどうかは、契約内容が全く被告側の一方的決定に委ねられていたこと(尚乙第十一号証参照)等から見て疑問の余地なしとはしないのであるが尚これを以て一種の賃借権であると見ることは可能である。而して右賃借権の存続期間は如何の点について考察するに、前認定の如く当初に作成された契約書もその後に作成された契約書も全て一ケ年限り或はそれ以下の賃貸期間の定を規定しているのであるが、前記の如きその作成経過、国の予算との関係から来る制約の存在、その他当時における客観情勢(占領軍による使用がその事柄の性質上相当長期間にわたり不可避のものとして継続されるのであらうという見通しは自ら当事者双方において抱いていたものと推察される。)並に本件土地の使用が占領中は異議なく継続された事実等に照せば右賃貸期間についての書面上の定は文字通りそのまゝ契約内容を表現するものとして受取ることは事案に則したものとはいい難く、右は形式的なものにすぎぬものと見るべきであり、一会計年度限りの契約が毎年更新されたと見るよりも、寧ろ当事者の真意は占領軍による占領が継続する間は賃貸借を継続するということに自ら一致するところがあつたもの、即ち右の如き黙示の合意が成立していたものと解するのが相当であろう。しからば被告は右合意による期限である占領軍による占領状態の終結日たる昭和二十七年七月二十七日(連合国との平和条約は同年四月二十八日発効したのであるが、日米間安全保障条約第三条に基く行政協定附属交換文書所謂ラスク書簡並に日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法附則第二項により右発効後九十日間は猶予期間と見るべきである)までは、本件各土地につき原告等に対する適法な賃借権に基いてこれが使用を継続することができたものといはなければならない。

しかしながら、講和条約が発効し占領状態が終結したその後においても、占領軍が駐留軍に性格を変じて尚使用を継続する故を以て、右の賃貸借契約が尚も駐留軍の必要とする期間は存続せしめられるかどうかについては、契約当初において占領終結後も尚外国軍隊が日本に駐留するという如き事態があるべきことは必ずしも予測されたところではなく(分割占領されたドイツ国を除き、フインランド・オーストラリア・イラン・中国本土・北鮮等いづれも外国軍隊の駐留から解放されている)又仮にその様な事態が生ずるとしても本件土地が引続きその駐留軍によつて使用されるかどうかは更に予測し得なかつたところであらうから、合衆国軍隊による使用が事実上尚継続し、政府がこれに対し本件土地を提供すべき義務を負う状態に変化がないかという理由を以て、当初の賃貸期間に関する右認定の黙示の合意の中に被告主張の如く「占領終了後も尚外国軍隊が駐留する場合はその駐留軍の必要とする期間は賃貸借を継続する」という趣旨まで含まれていたと解することは困難であり、その他右の趣旨の如き期間の定が暗黙に当事者間になされたことを認むべき別段の資料もないので、畢境前記の賃貸借契約は占領状態の終結と共にその存続期間が満了し、被告はそれ以後は改めて本件土地についてその所有者等に対し新たな使用関係を設定しなければこれを使用すべき根拠はなくなつたものというべきである。

しかるに本件各土地につき右以後の新たな使用関係が設定されているかどうかについて検討するに前認定(5) 前段の如く講和発効に際し、従来の契約条項中占領軍とあるのを駐留軍と読み替え、尚これを被告に対し引続き賃貸する旨の賃貸借改訂仮契約書が訴外中山市太郎と被告との間に作成されてをり、その本旨が従前の慣例に則り会計年度限りの本契約を結ぶまでの暫定的取極の埓を超えて駐留軍の使用のため必要な期間更に賃貸を継続する趣旨であるかはすこぶる疑問としなければならぬが、仮にかゝる内容の契約であるとしても右中山において原告等からかゝる契約締結をなすについての権限を与えられていたことを認めるに足る証拠がないので右契約はその効力発生を認めるに由がなく、従つて前説示の「占領継続中は存続すべき内容の賃貸借契約」が講和発効に際し右中山と被告との間で、改めて駐留軍の使用する間は尚存続すべき旨確認されたとする被告の主張(答弁(一)の末段)もその理由がない。而して原告島津の所有地については右以外に何等新たな使用関係の設定手続がとられていないことは被告の目認するところであり、又原告松本英一の所有地については右(5) 後段の如く昭和二十七年七月二十八日附を以て訴外簑原次作と被告との間に同日以降同二十八年三月三十一日までを賃貸期間とする賃貸借契約書が作成されてはいるが、同原告より右簑原への右契約締結についての委任状は提出されなかつたことは前認定の通りであるから右契約は代理権欠缺の故を以て無効なものといはざるを得ず(もつとも原告英一は前記(6) 説示のとおり昭和二十七年度分の賃料を代理人によつて受領しているので昭和二十八年三月三十一日までの賃貸借は締結されたとも解せられぬことはないが、仮にそうだとしても其の後の使用権を設定した形跡はない)従つて右原告等の所有地については他に被告において適法にこれが使用関係を設定したことを主張、立証しない以上、被告はもはやこれが使用を継続すべき何等の権限もなくして不法に右土地の使用を継続しているものと認めざるを得ない。

次に原告松本治一郎所有地については、右(5) 後段認定の事実によれば、昭和二十七年七月二十八日以降同二十八年三月三十一日までの期間は有効な賃貸借契約関係が同原告と被告の間に存在していたものと認められるが、同原告主張の如く右契約の内容が日本国憲法第九条違反の故を以て無効であるかどうかの点の判断はこれをしばらくおくとしても、右契約が右約定の賃貸期間を超えて現在もその効力を持続するものと解すべき根拠はなく、昭和二十八年三月三十一日を以て右契約は期間満了により終了したものと認めざるを得ないので、それ以後は同原告所有地についても既に他の原告等について述べたと同じ結果に帰着することとなる。

以上の次第であつて本件各土地につき被告主張の如き現在も効力が存続する賃貸借契約の存在することは遂にこれを認めることができず、被告は結局何等の権限もなくして右土地の使用を継続し原告等の右土地所有権を侵害しつつあるものといはなければならない。而して右各土地上に合衆国駐留軍の軍事施設がなされていることは被告の認めるところであるから、被告は右施設を撤去した上該土地を夫々の所有者である原告等に明渡すべき義務がある。

よつて被告に対しこれが明渡を求める原告等の本訴請求はすべて理由があるから爾余の点の判断を待つまでもなく正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 丹生義孝 藤野英一 和田保)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例